2019年8月14日水曜日

ツール・ド・フランス 1935年 ピレネーステージ その20


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Le Miroir des Sports誌
1935年7月25日号
ツール・ド・フランス第16ステージ



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12~13ページです。
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13ページ中段
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(茶色の文字が解読結果です。)


ポーへのステージ よもやま話

-5- 休息日




ポーでの休息日は、これまでの休息日とは様子が違う。



好成績に向けてやる気満々の選手もいれば、
巻き返しが難しく半ばあきらめかけている選手もいるが、
皆の表情にはおしなべて
文字通り最後の”山場”、それがもう過ぎたという安堵感がうかがわれる。




山岳地は息つく暇もなく、あらん限りの力を振り絞って走らなければならないが、
平地のコースなら、タイムトライアルだろうが、通常のレースだろうが、
消耗も大したことはない。




選手みなにある同じ思いは、今日はひと心地つける日だという事だ。
「やっと、苦しみと畏さから解放された~。」




山岳地では、命の危機でもなければ、だれも助けてはくれない。

曲がり角で、狭い道で、車体が跳ねたり、滑ったり。
彼らはいつも、転倒の、転落の、
そしてその結果、怪我で競技ができなくなる脅威にさらされている。




あえて誰とは言わないが、あるベルギー選手などは、
ガップの出口、ヴァール峠とアロ峠の手前で、べそをかきながらもがいていたのだ。
一国の代表たる者がここまで苦しんでいるのを見たことがなかった。



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「ウォー! もうやめたい! もうたくさんだ。
 俺には、かみさんも子供もいるんだぞ。 何かあったらどうしてくれるんだ。
 昨日、タイヤ外れが相次いで、頭から血を流して運ばれていた奴もいたが、
 俺もいつかそうなってしまう!」



とは言え、泣き言の本人は今も元気で走っていて、大した事故には遭っていない。


こんな感じなので、
最後の山場も何とか凌いでポーにたどり着いたという選手たちのホッとした気持ちは
よくわかる。



しかし、ただのんびりムードとは少し違う。
レースの前日は、大抵ワクワクし、目を輝かせ、誇らしげで明るい雰囲気だが、
今日の各チームは決してそうではない。



今この時、残りの5ステージをどのように挑むのか、
それぞれの課題を抱えて、重苦しい空気が漂っている。




ベルギー勢の課題は、チームのまとまりを今一度強めることだが、
それほど案ずることはない。




ロマン・マースが2分57秒の差をつけて総合首位を保っている。
フラマン人選手に先導させて、着々とレースをこなせばよい。




実際、ベルギー勢にはそれほど追い詰められた様子は見受けられない。

山岳ステージを乗り切った今となっては、
平坦なステージにもタイムトライアルにも強いロマン・マースが、
そうやすやすと大敗するとも思えない。




では対するイタリア勢の課題はというと、
自分だけでは何とも解決しづらい、変な問題に直面しているという事だ。



第19ステージの後半、
ロシュ=シュル=ヨンからナントへのコースで
チームタイムトライアルが行われる予定だが、
イタリア選手はモレリとティアーニの二人しか残っておらず、
チームそのものが組めないのだ。



人数が足りないのに、いったいどうしろというのだ?
イタリアの二人の困惑する顔が目に浮かぶ。




これに対しては、
ベルギー、イタリア、ドイツ、そしてフランスのコミッショナーが、
何度も顔を突き合わせて話し合いを重ね、
ドイツ選手、スペイン選手、スイス選手を交代で、
あるいは、
イタリアチームによってピックアップされたツーリスト・ルーティエクラスの選手を
加えることを提案した。




しかしそういうやり方で人数合わせはできるとしても、
二人のイタリア人をはじめ、他の選手やファンは、それで納得できるだろうか?


一番わかりやすいやり方は、
ポー以降に予定されているチームタイムトライアルステージ全てを無くしてしまう
事のように思う。




ツールのルールを変更することは容易ではないが、選手が声を上げればよい。



「あのー、私がサインした参加誓約書には
 決められたルールに従い異議は申し立てないと書いてありました。

 でも、ツールに勝つよう全力を尽くせって言うためのルールなんだから、
 今回のタイムトライアルステージのように、
 選手がなんだかなぁと感じるような状況なら
 やめてしまってもいいのではないでしょうか。」

なんてね。 それしかないだろ?



(※) チームタイムトライアルをなくしてしまえという論調のようですが、
  実際にはその後1回のタイムトライアルと2回のチームタイムトライアルが
  おこなわれました。

  しかも第20ステージの第2レースでは、
  急造チームのはずのイタリアのアンブロッジオ・モレリが勝っています。



ーつづくー

この記事は、2016/11/27(日) 午後9:49にYahooブログに掲載した記事に
加筆・修正し再掲載したものです。